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定価:5,500円(本体5,000円+税10%)
概要
内臓脂肪型肥満を基盤として生活習慣病が集積する状態をメタボリックシンドロームとよび,本症候群が動脈硬化発症の可能性を伴うことがここのところ国内でも広く認識され,2005年4月には本症候群の日本人の診断基準が策定された.各種の生活習慣病の第一線研究者がメタボリックシンドロームという新たな概念を提示し,糖尿病,高脂血症,高血圧などの横断的理解をめざし基礎知識から最新の知見までをわかりやすく解説.基礎研究者から臨床医まで必読の決定版.
近年,高齢化社会の進展に伴い,健康に長寿を全うしていくことは医学界にとっても大きな課題となっている.現代の日本人が陥りやすいライフスタイルである過食と運動不足からエネルギー過剰が生じること,そこから脂肪細胞への中性脂肪の蓄積,すなわち肥満症がひき起こされ,その肥満症が種々の病気を発症させることは広く知られるようになってきた.しかしこれらを全面的に克服する道はまだ遠いと思われる.
肥満時における脂肪蓄積は肝臓,筋肉,膵臓,血管壁などでも起こり,それぞれの臓器の機能障害を生じ,それらが高じると糖尿病,高脂血症,高血圧などのいわゆる生活習慣病が発症する.これらの疾患は慢性疾患であり,多くの人々がこれらの病気と長きにわたり闘わねばならない.
さらに,この疾患群が一個人に集積することが,動脈硬化性疾患発症の背景として重要となる.国内での全死亡のうち,動脈硬化症に起因する心血管と脳血管疾患は死因統計上,約30 %に上ることが報告されており,がんと並ぶ大きな課題である.
最近,これら糖尿病,高脂血症,高血圧などが重積する状態を“メタボリックシンドローム”という概念でとらえ,本症候群に対して米国NIHのNCEP(National Cholesterol Education Program)やWHO(世界保健機構)が診断基準を発表して以来,わが国でも広く認識され注目を集めるようになってきた.先ごろわが国においても日本人のメタボリックシンドロームの診断基準が策定され,そこで改めて内臓脂肪蓄積の重要性が認識された.その一方で,ここ数年で大きく解明が進んできたアディポサイトカインや末梢臓器由来分泌因子などのさまざまな分子ならびに遺伝子がどのようにこれら疾患の病態にかかわるのかについて関心が高まってきている.
今回,メタボリックシンドロームの基礎研究の成果を,一つにまとめることとしたのは,わが国のこの重要課題に,それぞれの専門分野を越えて取り組んでいかなくてはならないという思いからであり,“メタボリックシンドローム”という新たな枠組みでこれらの疾患をとらえ直すことで,これまで臨床上,独立してとらえられてきた各疾患の病態の背後にある分子メカニズムから新しい横断的な理解が得られるのではないかと考えたからである.
本書刊行に際しては世界の最先端をリードするわが国の研究者に貴重な時間を割いていただき,メタボリックシンドローム研究の基礎知識から最新の知見までわかりやすく解説いただいた.ここに厚く御礼申し上げたい.本書が多くの診療従事者,医学研究者,創薬に携わる研究者の方々の大きな力となることを願っている.
2005年4月 編者
第I部 総 論
第1章 メタボリックシンドロームの臨床・基礎オーバービュー
──日本人メタボリックシンドロームの診断と基礎病態の解明をめざして──
中村 正 下村伊一郎
1-1 はじめに
1-2 マルチプルリスクファクター症候群の概念の変遷
1-3 メタボリックシンドローム誕生の経緯とその概念
1-4 日本人におけるメタボリックシンドローム診断基準の考え方
1-5 メタボリックシンドロームの発症機序とそのさらなる解明を目指して
1.内臓脂肪蓄積がどのように病態にかかわるのか?
2.肥満脂肪組織でどのようなイベントが起こっているのか?
3.さらなる種々の内分泌因子の関与の可能性は?
第II部 病 態
第2章 低アディポネクチン血症 前田法一 船橋 徹
2-1 はじめに
2-2 アディポネクチン
2-3 低アディポネクチン血症とインスリン抵抗性
2-4 低アディポネクチン血症と動脈硬化症
2-5 低アディポネクチン血症と高血圧
2-6 低アディポネクチン血症と肝臓病
2-7 低アディポネクチン血症とメタボリックシンドローム
2-8 低アディポネクチン血症の是正
2-9 おわりに
第3章 メタボリックドミノと生活習慣病治療ストラテジーの構築 伊藤 裕
3-1 メタボリックドミノとは?
3-2 メタボリックシンドロームにおける重積した生活習慣病の相互の連鎖
3-3 メタボリックドミノにおける糖尿病発症の位置づけ
3-4 メタボリックドミノにおける糖尿病と高血圧の合併の意義
3-5 メタボリックドミノと組織レニン-アンジオテンシン系(RAS)
3-6 メタボリックシンドローム合併症とRAS
3-7 糖尿病発症とRAS
3-8 高血圧発症とRAS
3-9 肥満とRAS
3-10 メタボリックドミノからみた生活習慣病治療ストラテジーの構築
3-11 心血管内分泌代謝学および再生医学からのメタボリックドミノ下流治療
第4章 メタボリックシンドロームの分子基盤:
アディポステロイドの基礎と臨床 益崎 裕章 中尾 一和
4-1 メタボリックシンドロームの分子病態としての脂肪細胞機能異常
4-2 アディポステロイドとメタボリックシンドローム
4-3 アディポステロイドを標的とするメタボリックシンドロームモデル
4-4 メタボリックシンドローム抵抗性モデル,11β-HSD1ノックアウトマウス
4-5 メタボリックシンドローム創薬のターゲット
第5章 メタボリックシンドロームにおける脂肪毒性のかかわり:
基礎と臨床 島袋充生
5-1 はじめに
5-2 メタボリックシンドロームの成因:脂肪毒性仮説
5-3 メタボリックシンドロームにおける遊離脂肪酸の役割
5-4 おわりに
第6章 インスリン抵抗性と動脈硬化症 窪田直人 窪田哲也 門脇 孝
6-1 はじめに
6-2 インスリンのシグナル伝達機構
6-3 インスリン抵抗性と血管内皮細胞
6-4 インスリン抵抗性と血管平滑筋細胞
6-5 インスリン抵抗性と酸化ストレス
6-6 メタボリックシンドロームと動脈硬化
6-7 インスリン抵抗性とアディポネクチン
第III部 分子機構
第7章 アディポネクチン受容体 山内敏正 門脇 孝
7-1 はじめに
7-2 肥満によるインスリン抵抗性惹起メカニズム
7-3 高脂肪食負荷・FFAによるインスリン抵抗性惹起メカニズム
7-4 PPARγとは
7-5 PPARγの分子メカニズムと遺伝子多型
7-6 アディポネクチンの分子メカニズムと遺伝子多型
7-7 アディポネクチンの作用機序
7-8 アディポネクチン受容体
7-9 おわりに
第8章 インスリン作用発現機構とインスリン抵抗性 小川 渉
8-1 はじめに
8-2 インスリンの作用機構
8-3 各種臓器のインスリン作用
8-4 メタボリックシンドロームにおけるインスリン抵抗性
第9章 メタボリックシンドロームとエネルギー転写因子 島野 仁
9-1 メタボリックシンドロームの発症機序とエネルギー転写因子の関与
9-2 エネルギー代謝における転写調節の重要性と生活習慣病
9-3 メタボリックシンドロームと転写因子
第10章 肝由来因子Angptl3と筋肉由来因子Musclinの病態的意義
松田守弘 下村伊一郎
10-1 肝由来因子Angptl3
10-2 筋肉由来因子Musclin
10-3 おわりに
第11章 小腸由来分泌因子の病態的意義 山田祐一郎
11-1 栄養摂取量とBMIの変遷
11-2 外界との接点─消化管の役割
11-3 GIP
11-4 GIP膵外作用に着目した治療戦略
第12章 摂食調節系のメカニズム 上野浩晶 中里雅光
12-1 はじめに
12-2 中枢における摂食調節機構
12-3 末梢性摂食調節機構
12-4 おわりに
第IV部 治療・臨床応用
第13章 PPAR作動薬の将来──PPARγおよびPPARδを中心に──
田中十志也 酒井寿郎
13-1 はじめに
13-2 PPARsの構造と機能
13-3 PPARαアゴニストの作用機序
13-4 PPARγアゴニストの作用機序
13-5 PPARδアゴニストの作用機序
13-6 新規PPAR作動薬
13-7 おわりに
第14章 メタボリックシンドローム包括的治療薬としてのアンジオテンシン受容体阻害薬と
スタチン系薬剤 平瀬徹明 野出孝一
14-1 はじめに
14-2 メタボリックシンドロームとインスリン抵抗性
14-3 インスリン抵抗性とARB
14-4 インスリン抵抗性・糖代謝異常に伴う血管障害とARB
14-5 脂質代謝とARB
14-6 スタチン系薬剤の動脈硬化抑制作用
14-7 おわりに
第15章 グレリンのトランスレーショナルリサーチ
──栄養障害を伴う慢性心不全・慢性閉塞性肺疾患のグレリンによる治療の可能性──
村上伸介 永谷憲歳 寒川賢治
15-1 グレリンとは
15-2 悪液質とグレリン
15-3 グレリンのトランスレーショナルリサーチ
15-4 おわりに
索 引