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1版
定価:3,300円(本体3,000円+税10%)
概要
分子生物学を基本からわかりやすくコンパクトにまとめ,各概念を論理的に身に付けられるよう図や本文などを工夫.
薬学分野に関連する事項を多数収載し,薬学生向けの特色をもたせ,未来への発展に向けて学習していこうという意欲をかきたてるよう新しいトピックスが多数盛り込んだ.
薬学部学生のために待望の分子生物学の入門教科書.
本書は薬学を学ぶ学生諸君のための新しい分子生物学のテキストとして執筆されたものである.薬学分野における教育は,いま大きな変革の時期にさしかかっている.ポイントの一つは十分な専門知識を備えた薬剤師の育成にあり,生物系薬学をはじめとする基礎教育や臨床系薬学がこれまで以上に充実することであり,それらを踏まえ平成18年度からは6年制カリキュラムがスタートする.また生物系薬学分野の中にあっては,基礎生物学,とりわけ分子生物学の重要性が強調されている.分子生物学の進歩はここ10年,ヒトゲノムの解明などに代表されるように,基礎研究の面から遺伝子操作などの技術応用に至る分野まで目を見張るものがあり,医学薬学においては細胞や組織,さらにはヒトの体にまでも,これらの技術を用いて直接手が加えることができるようになっている.これまで薬理作用や薬物代謝の分子機構など不明であったものも次々とわかりはじめており,また分子生物学的情報が創薬の方法を根本から変えようとしている.生命現象を分子のレベルで解き明かそうとする分子生物学の重要性は,生物系薬学におけるすべての基礎として,今後一層高まることは間違いないであろう.このような状況のなか,次代を担う学生にとって薬学領域を視野に入れた新しい分子生物学の教科書が必要とされているという認識のもと,本書が刊行されることとなった.
本書は生物学的現象を分子のことばによって正しく理解することを目標に,個々の事象や用語に関する鍵となる考え方,すなわち“KEY CONCEPT(キーコンセプト)”の修得に留意してまとめられた.第I部では基礎的な分子生物学の知識をおさえ,第II部では免疫やがんなどの生体反応や高次生命機能を系統的に理解できるようにし,最後の第III部では,分子生物学と医学薬学領域をつなぐ遺伝子工学をはじめとするバイオテクノロジーや,ゲノム創薬など分子生物学の応用的側面について学べるようにした.また最近注目されている再生工学や発生工学も,具体的な事例を交えて紹介している.われわれ著者はそれぞれの専門分野を分担執筆し,各章とも学術的に深く掘り下げられた内容となっているが,図表を用いてわかりやすく解説し,結果として薬学に必要な分子生物学の基礎と応用がバランス良く配置された本になったのではないかと自負している.紙面の都合で,分子生物学のトピックスを必ずしもすべて網羅することができなかったが,本書を通して必須な内容は確実に学ぶことができるはずである.
最後に,本書の作成にあたり,われわれ著者をさまざまな面で助けていただいた南山堂編集部スタッフの努力と情熱に対し,この場を借りて心からお礼申し上げたい.本書が薬学に学ぶ学生諸君の勉学の一助となれば,書き手としてこれにも勝る喜びはない.
2004年12月 著者の一人として 田村隆明
I部 分子生物学の基礎
1章◆分子生物学とは
2章◆細胞の構造と働き
2−1 生物の基本単位,細胞
2−2 細胞膜
2−3 細胞小器官
1.核
2.ミトコンドリア
3.小胞体
4.ゴルジ体
5.リソソーム
6.ペルオキシソーム
7.その他
2−4 細胞骨格
2−5 細菌の構造
3章◆生体を構成する分子
3−1 細胞に含まれる元素
3−2 水
3−3 無機塩類と気体
3−4 有機物と生体高分子
1.アミノ酸とタンパク質
2.糖質
3.脂質
4.ヌクレオチドと核酸
4章◆生体分子反応とエネルギー代謝
4−1 生体触媒:酵素
4−2 酵素反応の特徴
1.最適条件
2.反応に関与する分子
3.アロステリック酵素
4.酵素反応速度
4−3 補酵素
4−4 エネルギー代謝と高エネルギー物質
4−5 エネルギー生産過程
1.酸化還元反応
2.電子伝達系と酸化的リン酸化
4−6 糖代謝
1.解糖系
2.TCA サイクル
3.その他の糖代謝経路
4−7 脂質代謝
5章◆遺伝子と DNA
5−1 分子遺伝学の成立と DNA の発見
1.古典的遺伝学
2.遺伝物質としての DNA
5−2 DNA の構造と性質
1.DNA の構造
2.核酸の性質
5−3 細菌遺伝学
1.大腸菌を用いる分子遺伝学
2.プラスミド
3.ファージ
4.トランスポゾン
5−4 DNA の取り扱い
1.抽出,分離,検出
2.サザンブロット法
3.塩基配列決定法
4.PCR
6章◆遺伝情報の保持
6−1 DNA 複製
1.半保存的複製
2.レプリコンと複製開始機構
3.大腸菌の DNA ポリメラーゼ
4.不連続的複製
5.特殊な複製機構
6.真核生物の DNA 複製
6−2 遺伝子の変異
1.DNA の構造変化:突然変異と変異原
2.変異の影響
6−3 修復と組換え
1.塩基対変異の修復
2.チミン二量体の修復
3.遺伝子組換え
4.組換え機構
5.その他の組換え機構
7章◆遺伝情報の発現
7−1 遺伝子発現と転写
7−2 原核生物の転写
1.転写機構
2.転写の制御
7−3 真核細胞の転写制御
1.RNA ポリメラーゼ
2.基本転写因子
3.配列特異的転写制御因子
4.クロマチン転写
5.転写後修飾
7−4 翻訳
1.翻訳に必要な分子
2.遺伝暗号
3.翻訳機構
4.翻訳後修飾およびタンパク質分解
II部 高次生命現象の分子生物学
1章◆細胞増殖の調節
1−1 細胞の増殖
1.細胞増殖の目的と時期
2.細胞増殖の誘導と停止
1−2 細胞の分裂
1.細胞周期
2.細胞周期の進行
3.細胞周期進行の監視
1−3 細胞の死
1.細胞の消失
2.アポトーシスとネクローシス
3.アポトーシス細胞の貪食除去
4.アポトーシス誘導の仕組み
5.アポトーシス制御の異常と疾患
1−4 細胞のがん化
1.がん細胞の性質
2.がん原遺伝子の異常と細胞増殖調節の乱れ
3.がん抑制遺伝子の異常と細胞増殖および細胞死制御の乱れ
4.形質転換と不死化との関係
5.アポトーシス誘導によるがんの治療
2章◆細胞への情報伝達
2−1 物質の取り込み
2−2 情報の取り込み
1.細胞膜を通過する情報伝達物質
2.細胞膜を通過しない情報伝達物質
3.神経細胞における情報伝達
3章◆薬物輸送・薬物代謝
3−1 薬物代謝
1.シトクロム P450
2.抱合酵素
3−2 薬物輸送
・薬物トランスポーター
4章◆免疫による生体防御の仕組み
4−1 二つの免疫反応
4−2 自然免疫の仕組み
1.免疫担当細胞による微生物の認識
2.ショウジョウバエでの自然免疫反応
4−3 獲得免疫の仕組み
・抗原提示と T 細胞活性化
5章◆免疫以外の生体防御の仕組み
5−1 微生物以外の有害環境因子とそれに対する生体の応答
5−2 小胞体へのストレスから体を守る仕組み
1.小胞体の働きとその異常に起因する疾患
2.タンパク質の折りたたみと分子シャペロン
3.小胞体ストレス応答
5−3 遺伝子の損傷から体を守る仕組み
1.環境因子により生じた DNA 傷害への生体応答
2.DNA 損傷の種類と修復機構
III部 分子生物学の応用
1章◆遺伝子工学
1−1 組換え DNA 技術と遺伝子工学
1−2 使用される酵素
1.制限酵素
2.その他の DNA 関連酵素
3.RNA 関連酵素
1−3 操作の実際
1.組換え DNA 分子の作製
2.宿主−ベクター系
3.ベクターに付加される機能
1−4 遺伝子を単離する
1.遺伝子ライブラリーのスクリーニング
2.さまざまなスクリーニング法
1−5 組換え DNA 技術の成果
2章◆バイオテクノロジー
2−1 バイオテクノロジー概要
2−2 細胞工学と組織工学
2−3 動物個体を改変する技術
1.基盤技術
2.応用技術
2−4 植物の遺伝子改変技術
2−5 物質生産
1.タンパク質工学
2.バイオリアクターとアニマルファクトリー
2−6 バイオテクノロジーにかかわる問題
3章◆ゲノム学:機能発現と修飾
3−1 染色体とクロマチン
1.染色体構造
2.ヒストン
3−2 ゲノム学:ゲノミクス
1.遺伝子の存在様式
2.ゲノム解析
3−3 ゲノムの発現
1.遺伝子の発現・機能の解析
2.生命情報学:バイオインフォマテイクス
3−5 ゲノムの修飾
1.DNA のメチル化
2.クロマチンタンパク質の化学修飾
3.ヌクレオソームの形成と再構成
4.エピジェネティクス
4章◆分子医学
4−1 新しい医療につながる科学と技術の進歩
4−2 遺伝子病の診断と治療
1.遺伝子診断の種類
2.遺伝子診断の方法
3.遺伝子治療
4−3 免疫を利用した新しい医療
1.抗体のヒト化あるいはヒト抗体の調製
2.リンパ球の体外での活性化
3.新しいワクチン
4−4 再生医学と移植医療
1.臓器移植
2.臓器の再生
3.マウス胚性幹細胞の分化誘導
4.幹細胞を利用した移植医療
5章◆創薬への応用
5−1 はじめに
5−2 標的タンパク質の選定
5−3 標的タンパク質の立体構造から医薬品創製への道
5−4 コンビナトリアルケミストリー技術
5−5 毒性・副作用評価
索 引