災害看護

災害看護

心得ておきたい基本的な知識

書評

令和の時代につなぐ災害看護の智恵

津波古澄子 氏(清泉女学院大学看護学部学部長)

 2019年5月1日,日本は新しい元号「令和」の時代が幕開けした.平成の時代から令和の時代につなぐ智恵とは何であろうか.令和元年の市井の人々の声は,マスコミのインタビューに対して,「災害が少ない平和な年であること」を異口同音で語っている.確かに,1991年(平成3)の雲仙・普賢岳噴火から始まり,幾度も様々な地の避難所で膝をつき,避難住民に語る平成の天皇,皇后のお姿が印象深く残っている.
 国内外の災害の時代において,「どうすればかけがえのない1人1人の命が救えるのかを考える」を中心に据えて書かれたのが,本書『災害看護 心得ておきたい基本的な知識』である.本書は,看護学生や看護職のみならず,小・中・高の教員,看護系大学の教員ならびに災害に関心のある人々に,是非,手元において欲しい一冊である.
 巻頭の口絵「世界・日本で多発する災害」は,本書の前提でもある「昨今の災害の巨大化・広域化・甚大化・複雑化」が一目瞭然である.2011年に発生した東日本大震災は,地震の被害と共に大津波,また“想定外”で国内外を震撼させた原子力発電所の難にも直面し,多くの教訓と課題を残した.本書は,変化する災害状況と被災者の方々の長期にわたる暮らしの支援について,災害看護活動の根底にある「災害サイクル」を軸に災害看護とは何かを問いつつ示している.とりわけ,被災地における看護活動と支援の実際を,「column」という形でいくつもいくつも丁寧に紹介している.本書は複雑な災害の状況をわかりやすく説明し,重要なことに赤字のアンダーラインを引くなどの工夫をもってポイントを明示する.例えば,九州豪雨災害の発生事実・状況の記述に加え,「空振り覚悟の早めの自主避難」(P.292)など必要な行動や具体的ヒントがいくつも出てくるなど,現場や現象から生まれた智恵が凝縮されている.読者はその中から,いかなる状況や環境変化においても柔軟に“つなぐ智恵”と支援のヒントを見出すことができるであろう.
 第7章「災害看護の発展に向けて(教育, 理論, 研究)」では「災害看護を探究する姿勢を持ち続ける」ために看護基礎教育および大学院教育の重要性を述べており,筆者も同感である.筆者の所属する看護学部は山々に囲まれ,雪害,水害,過疎地が多いなどの地域特性から災害が往々に予測されるところにある.それらの地域特性を踏まえて,看護学科の通常の7領域に加えて,「災害看護学」の領域を加えた8領域でカリキュラムを組んでいる.災害看護学は他の領域すべてに反映されるため,全学生が基本的な知識を学修する必要があると考えており,本書を読んでさらに確信を得た.さらに,災害におけるヘルスケア・インフラストラクチャーであるケア組織,ケア経済,ヘルスポリシー,関連法律が重要であるが,それらを多角的に捉えるためにも大学院教育の取り組みが必要である.災害看護の理論構築も急がれ,人間を取り巻く環境の変化に対するレジリエンス,適応能力,人と環境の相互作用の中での「生きがい」をみつけるための支援の研究なども,今後の課題として注目したい.